心の豊かさ、優しさ、温かさ……
それらが生活苦の辛さを忘れさせてくれた。母の生きざまが、子供の心に残したたくさんの愛を、素朴な言葉に託してうたった母への賛歌。
【本文「野牡丹」より】
野牡丹の濃い紫が好きなのだけど
朝咲いて夕方には落ちてしまうので
いつ出会っても手折れずにいる
どうしてだろう
この花を見ると
きまって母を思い出してしまう
宵待つまでの黄昏のなかで
いつか母と見たかなしみがあるのだろうか
手折られるのをふせぐために
足音が近づいたら自ら花びらは落ちるという
いつ出会ってもそんな散り方をしていて
まだ美しいのに
実を守るために散ってゆく花が
ひたすらな母に似ている